キャラが立つ櫓|見つけて楽しむ!お城のツボ:第2回

意外なほど個性的な櫓たち

以前に遊んだことのあるロールプレイングゲームで、主人公の勇者になって世界中を冒険して歩くうちに、二人の女の子のどちらかを結婚相手に選ばなくてはいけない、という状況に立ちいたったことがあります。どちらを選んでもゲームの進行に大きな影響はないのですが、でも、悩みますよね、この状況…。
こんなゲームのことを、つい思い出したのが下の写真の明石城

二つの三重櫓が並び立つ明石城

明石駅ホームから眺めた明石城。本丸の両端に三重櫓が建っている。
(撮影:西股総生)

山陽本線明石駅のホームからよく見えるこの城は、本丸の石垣の東西に、二つの三重櫓が並び立っています。駅を降りて、城へ向かってみましょう。

二つの三重櫓は、どちらも背が高くスマートなプロポーション。一見、似ていますが、近づいてよく見ると、向かって右手の巽(たつみ)櫓の方がスッキリ系、向かって左の坤(ひつじさる)櫓の方が、目鼻立ち濃いめです。

本丸の南東隅に建つ巽櫓と、南西隅に建つ坤櫓。
(撮影:西股総生)

実は、三重櫓がふたついっぺんに視野におさまる城って、なかなかありません。そう思いながら眺めていると、「あなたはどっちの櫓が好き?」と問われている気分になります。

こんなふうに、櫓には意外なほど個性があります。「なーんだ、櫓かあ」なんていわないで、気をつけて見ていると、それぞれの櫓がキャラ立ちしているのがわかります。

自己主張が強い!名古屋城の清洲櫓

名古屋城清洲櫓。二重目の窓が1-2-2-2になっているの、わかる?
(撮影:西股総生)

たとえば、こちらの写真は名古屋城の清洲櫓。堂々たる三重櫓でしょう? この櫓は、名古屋城の裏手にあたる、御深井(おふけ)丸という場所の北西隅に建っています。裏手から攻め寄せてくる敵に向かって、俺様が御深井丸のボスキャラだ、攻められるものなら攻めてみろ! と、自己主張をしているようです。

醸し出される”俺様感” 大坂城の乾櫓

大坂城の乾櫓。個性的なデザインで俺様感をかもし出している。
(撮影:西股総生)

俺様感のある櫓といえば、大坂城の乾(いぬい)櫓もなかなかのもの。この櫓は、上から見るとL字形をしているので、屋根の作りが独特ですね。しかも、二重とも同じサイズで立ち上がっているので、堀端から見ると威圧感があります。

「ぼーっと城歩いてんじゃねえよ!」と言われそうな千貫櫓

大坂城なら、千貫(せんがん)櫓も見のがせません。この櫓、大手門に向かう道を真横から狙える場所に建っています。もともと、豊臣秀吉の築いた大坂城でもこの位置に櫓があり、大坂の陣の時に「あの櫓を落としたら、知行千貫分の手柄だ」と噂されたとか。城は、豊臣家を滅ぼした徳川家によって造り直されますが、やはり同じ場所に櫓が建てられて、千貫櫓の名がついたそうです。

大坂城千貫櫓。伝説に彩られた櫓は見るからに戦闘力が高そうだ。
(撮影:西股総生)

もし、千貫櫓から鉄砲を撃ちかけられたとしたら…。とても大手門をこじ開けることなど、できそうもありません。でも、そんなことも知らずに大手門をくぐって城内に入ってゆく観光客の、何と多いことでしょう。つい、いいたくなりますね。「ぼーっと城歩いてんじゃねえよ!」

大坂城千貫櫓から大手門を見る。
(撮影:西股総生)

千貫櫓は公開されていることもあるので、中へ入ってみましょう。窓から眺めると、大手門に向かう観光客が丸見えです。それにしても、中が暗いですね。櫓はどこも、入ってみると暗いのです。なぜかというと、城外に面した側にしか窓がないから。おまけに、窓にはとても太い格子が入っています。

格子があるのは、建物の中と外とで明るさにギャップがあるのを利用して、中の様子を外から見えにくくするためです。ブラインドと同じですね。これは、城へ行ったら、ぜひ自分で確かめてみましょう。それに、頑丈な格子は弾よけにもなります。これも、窓のところで鉄砲を構える姿勢をとってみると、実感できるはず。 窓が外側だけなのも、鉄砲を撃ちかけるための建物として作られているから。そう、櫓は戦闘用の建物なのです。だって、城とは敵を防ぐための施設、なのですから。

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