レキシペリエンスでは2023年1月23日、福岡県糸島市「古材の森(旧西原邸)」で刀剣のお手入れや見方を学ぶ刀剣講習会を開催しました。
イベントには、自身で刀剣を購入された方、購入を検討している方など刀剣愛好家が集合。刀剣のお手入れ方法や見方を知りたいという皆様に向け、様々な刀剣の展示に携わる堀本一繁先生(福岡市博物館主任学芸主事)を講師に招き、そのポイントをレクチャーいただきました。
当日参加できなかった方のために、イベントの模様をダイジェストでレポートします。
刀剣のお手入れ方法とは?
「刀剣を持っているけれど、実はお手入れ方法がよく分かっていない」という方も多いのでは?と企画した本講習会。そこで、どんな手入れ道具を使えばいいのか、どのような点に気を付けて手入れするべきか、今回は基本から教えていただきました。
お手入れの大まかな流れは以下の通りです。
- 古い油を拭う
- 打粉を打つ
- 新しい油をひく
定期的に油を塗りかえることで、刀身が錆びないようにします。
簡単に思われるかもしれませんが、大切な刀剣を長く美しく保存するために気を付けるべき点もあるはず。多くの刀剣を取り扱ってきた堀本先生が語る、お手入れの注意点やポイントとは?
刀剣を手入れする前に注意したいこと
堀本先生「刀剣を取り扱うなら、まずは身づくろいから気を付けましょう。指輪などのアクセサリーを外し、服が引っかからないよう袖もまくります。
手入れは明るい部屋でおこなってください。暗いと細かい傷やほこりが見えません。そして、文化財にとって大切なのは湿度。博物館では、温度は20℃、湿度は55~60%くらいに管理していて気温差がほとんどありません。刀剣は金属なので、冷えたまま暖かい部屋に持ってくると結露して水滴が付いてしまいますので注意してください。」
この日はやや暖かい日だったのでほとんど暖房を入れていませんでしたが、冬の寒い日に刀剣をお手入れするときは、部屋の温度差にも注意しましょう。
今回使用したお手入れ道具
- 目釘抜(めくぎぬき)
- ネル布
- ティッシュ(パルプ100%のもの)
- 打粉(うちこ)
- 刀剣油
- 無水エタノール
- 刀剣枕
- ふくさ
- ビニール手袋(パウダーフリー)
一般的な手入れ道具とともに、ご自身おすすめの道具も使いながらお手入れの方法を教えてくれた堀本先生。プロはどんな道具を使っているのか、皆さんも興味津々でした。
堀本先生「私は手入れのとき、粉がついてないビニール手袋を着用しています。白手袋だとすべることもありますし、素手だと手の油や塩気も塗り込んでしまうからです。鎺(はばき)など素手で触る方もいますが、鎺は掃除できても鞘の鯉口の中は掃除できないので注意しましょう。」
まずは堀本先生による手入れのお手本を見せていただきます。
【手順①】刀身を抜く
目釘抜で目釘を外します。写真のように、指を添えてぐいっと押すと失敗が少ないとのこと。抜いた目釘は無くさないよう注意しましょう。
鯉口を切り、反りにあわせて鞘から刀身を引き出し、柄を外します。刀を斜めにし、手首を叩いて茎を少し出してから、しっかり握って抜き出すのがポイントです。
柄から抜けたら、切羽や鐔、鎺(はばき)も取り外していきます。
堀本先生「抜いてすぐの刀身には、ほこりや鞘のくずが付いているかもしれないので、軽く風で払ってやりましょう。」
【手順②】塗ってある刀剣油を拭う
そして、塗ってある古い刀剣油を拭います。
堀本先生「昔はよく揉んで柔らかくした奉書紙(吸油性が高い上質の拭い紙)で拭っていましたが、今は洗えるネル布を使っています。油を取る用、打粉を拭う用、仕上げに拭う用と3つ用意します。
最近では、最初の油をティッシュで拭っています。再生紙ではなく、柔らかいパルプ100%の3枚重ねくらいのものがおすすめです。慣れないうちは4つ折りにしたものをいくつか用意しておきましょう。」
今回堀本先生がおすすめしていたティッシュはクリネックスの『至高』もしくは『極』。某有名国立博物館も大量購入しているのだとか。店舗にはあまり置いていませんが、ネットで購入できます。
堀本先生「手前に引くと手を切る可能性があるので、棟側からティッシュを当て腰元から切先へ向けて拭ってください。ヒケが入らないようゴシゴシ拭わないように。平地、鎬地、棟と、それぞれ拭いますが、ヒケをつくらないよう1回拭ったら違うところで拭います。
油っ気が少なくなったらクロスなどで磨いてもいいですが、グラスファイバーのものはやめてください。いっけんフワフワですが、繊維が固いので傷が付いてしまいます。クロスなら、カメラ用のクリーニングクロスが良いでしょう。」
【手順③】打粉を打つ
ひと通り油を拭ったら、刀身に打粉を打っていきます。刀剣のお手入れというと、このポンポンする姿のイメージが強いですよね。
堀本先生「打粉が硬かったら、少し叩いて柔らかくしておきましょう。汚れないように、何か敷いた上で叩いておいてください。」
柔らかくした打粉を全体に打ったら、粗い粉を払い、またティッシュで拭っていきます。
堀本先生「普段の手入れは無水エタノールで拭って、展示のときだけ打粉を打つ、という博物館もあります。ただ、無水エタノールは乾くときに乾き染みが残る場合がありますので気をつけねばなりません。」
【手順④】新たに刀剣油をひく
打粉を拭い終わったら、ネル布に刀剣油を染み込ませ、刀身にひいていきます。
今回、事前の参加者アンケートで多かったのが「刀剣油はどのくらい付けたらいい?」という質問でした。一般的には薄くといわれていますが、ネットや書籍ではその加減が分かりづらいようです。
堀本先生「一般に油は薄くひけ、と言われますが、いっぺんにサッとひくだけだとムラができてしまいます。そのため、今はムラがでないよう万遍なくきれいに塗っています。鎺下も塗らないと錆びてしまうので、塗って大丈夫です。塗り過ぎた分は拭えばいいのです。保管している間に油が低いところに集まるので、鞘の中で溜まって汚さないよう、ティッシュで2回ほどしっかり拭いましょう。
また、油を塗りすぎると鎺の中に油がたまり汚れや錆の元になります。鎺も手入れして下さい。鎺の中を掃除するなら、赤ちゃん綿棒が便利です。刀剣油をつけて汚れを取り、その後きれいに油を拭ってください。」
堀本先生が愛用しているという刀剣油は、地元の研ぎ師さんお手製のもの。できるだけ乾きづらく、垂れにくい粘性のある刀剣油がおすすめだそうです。そして刀剣油については面白いエピソードも。
堀本先生「以前出張でお手入れ道具を持っていたら、手荷物検査で刀剣油が引っかかってしまったんです(笑)揮発性はあるのか、成分は、と聞かれ、危うく次の乗り換えに遅れるところでした。もし遠方に持っていくなら、化粧品と一緒にしておくと怪しまれないかもしれませんね。」
解説をしながら慣れた様子であっという間にお手入れは終了。参加者の皆さんも、実際に教わった手順でお手入れをしていきます。
お手入れ実践&鑑賞タイム
細かな点を質問しながらお手入れをしていく参加者の皆さん。大事な愛刀のことだけに、まさに真剣です。
そして今回、スペシャルゲストとしてお越しくださっていたのが無鑑査刀匠の瀬戸吉廣さん。刀剣をお持ちでない参加者様のために、特別にご自身の短刀をお貸しくださいました。実際に手に取ってお手入れをしていいとおっしゃってくれた瀬戸さん、ありがとうございました!
お手入れを終えたら、改めて鑑賞してみましょう。
刃文を見るなら白熱電球にあて、地肌を見るなら蛍光灯に刃を垂直にあてると見えやすいそうです。晴れていれば、日差しにあてたほうがよく見えるかもしれません。
お手入れをしつつ思い思いに鑑賞をしていたら、あっという間に90分の講習会は終了です。
講習会後は、人気刀剣モチーフのスイーツでお茶会
まだまだ刀剣について語りたいであろう皆様のため、講習会後はお茶会に。
刀剣講習会の会場をお借りした古材の森さんは、オリジナルスイーツも人気のレストラン。今回は特別に、「圧切長谷部」をイメージしたスイーツセットをご用意いただきました!
金霰鮫青漆打刀拵の色にあわせた、ガトーショコラとチーズケーキ。チーズケーキの方はよく見るとちゃんとツブツブ感を再現してくれています…!信長公からの抹茶をイメージしたムースも添えていただきました。
また、堀本先生と大塚巧藝社様のご厚意で、鍔コースターもお土産として御提供いただきました。
参加者の皆様、御協力くださった関係各所の皆様、そして堀本先生、誠にありがとうございました!
レキシペリエンスでは今後も不定期でイベントをちょこちょこ開催予定です。こんなイベントをしてほしいというリクエストなどもお待ちしております♪
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