今回のテーマは堀。ちょっと地味ですか? まあまあ、そういわずに。「城とは敵を防ぐ施設」という原点に立ち帰れば、堀は石垣と並んでとても大切なアイテムなのですから。
それに、櫓や城門が残っていない城でも、石垣や堀なら、たいがいの城にはあります。なので、石垣と堀を見て楽しめるようになれば、日本中たいがいの城でカンドーできます。それって、何だかお得でしょう?
水堀と空堀って何が違うの?
さて、堀には大きく分けて、水堀(みずぼり)と空堀(からぼり)があります。これは、わかりますね? では、水堀と空堀とは、どう使い分けるかわかりますか? 答えは、ものすごく簡単です。水が湧く場所に掘れば水堀になり、水が湧かない土地に掘れば空堀になる。それだけのことです。
名古屋城の空堀と水堀
この原理が、とてもよくわかるのが名古屋城。名古屋城へ行くときは普通、地下鉄名城線の市役所駅を使いますが、駅から地上に出ると、すぐに大きな空堀に出くわします。そこから本丸の方へ歩いてゆくと、高低差がないので、平城のように思ってしまうかもしれません。でも、それは平らな台地の上を歩いているからです。
ためしに、堀のまわりを一周してみましょう。歩いて行くと、途中で大きく坂を下る場所があって、二ノ丸の北側や、城の裏手に当たる御深井丸(おふけまる)のまわりは水堀になっています。名古屋城は台地の縁に築かれているので、台地の上にある堀は空堀、台地の下に掘った堀は水堀になっていることがわかります。
一方、駿府城や二条城、佐賀城、大分府内城なんかは、歩いていても坂を上り下りする箇所がありません。完全な平城だからです。これら低地に築かれた平城では、堀を掘れば水が湧いて、いやでも水堀になるのです。逆に、平山城で台地や丘の上に堀を掘れば、どうしたって空堀になります。山城も当然、空堀ですね。
攻め手になって、堀を越えてみよう(妄想で)
さて、堀を前にしたときのオススメ鑑賞法は、自分が攻め手になって越えるところを妄想すること。幅50メートルくらいの水堀なら、泳げそうですか? では、甲冑を着て腰に刀を二本差し、手に槍を持って泳いでみてください(ホントに泳いじゃダメですよ、頭の中で、です)。ソッコー水没ですね。
では、空堀はどうでしょう。のぞき込んでみると、深くて、落ちると痛そうですね。重い甲冑を着ていると、よりグシャッと落ちます。怖いですね。もう一度、平城や平山城の水堀をよ~く見てみましょう。意外に浅いのがわかります。でも、その分、幅を大きくとってあります。そう、水堀は幅で、空堀は深さで守るのです。
最近では、戦国時代に築かれた土の城の空堀にハマる人も増えています。空堀の底を歩けるように整備してある城へ行ったら、文字どおりハマってみましょう。
ただし、土の城の空堀は、2メートルや3メートルは埋まっているのが普通です。土造りな上に、廃城になってから400年以上もたっていますからね。「戦国時代には、もっと深かったんだ…」と、イメージしながら歩いてみましょう。「これ全部、人の手で掘ったんだ」という実感が、じわーっとしみてきます。
上の写真は、有名な山中城の障子堀(しょうじぼり)。障子とは「ついたて」のことです。ベルギーワッフルみたいですが、よく見るとワッフルとちがって、障子が十字になっていません。敵が簡単に渡れないようにするためです。障子堀とは、堀の中に入りこんだ敵兵を確実に仕留めるための仕掛けなのです! こわっ!
(写真・文/西股総生)
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