超意識高い系の建物、それが天守
連載3回目のお題は、天守。いよいよ真打ち登場! という感じですね。でも、日本全国にある4万とも5万ともいわれる城の中で、天守を備えた城はわずか数百か所。しかも、昔のままに現存しているホンモノの天守は、たった12棟という激レアぶり。
この他に、戦災や火事などで失われたものの、写真や図面をもとに外見を復元した天守もありますが、それらを見ていると、気づくことがあります。どの天守も形が個性的で、他と似ていないことです。天守というのは、超意識高い系の建物なのです。
“ナンチャッテ窓”でカッコつけている犬山城の天守
たとえば、上の写真の犬山城。いちばん上の階に、釣り鐘のような形をした窓がついていますね。専門用語で華頭窓(かとうまど)といいますが、実はこれ、壁に木枠がはまっているだけのナンチャッテ窓なのです。しかも、ナンチャッテ窓があるのは正面と背面だけで、両側面には付いていません。完全なカッコつけです。
彦根城の天守も…実は多い“ナンチャッテ高欄”
犬山城の最上階に付いていたバルコニーみたいなものを高欄(こうらん)・廻り縁(まわりえん)といいます。
彦根城の天守にも、最上階に高欄が付いていますが、こちらはただの飾りで、バルコニーのように外を歩くことができません。古い温泉旅館で、二階の窓の外に手すりが付いていて、お風呂上がりに手拭いを干したりしますが、あれと同じです。
現存12天守で、歩ける高欄・廻り縁があるのは犬山城と高知城だけ。彦根城・丸岡城・松江城・伊予松山城が、温泉旅館タイプのナンチャッテ高欄です。ちなみに、犬山城の廻り縁は風の強い日に外を歩くと、かなり怖いです。高欄が腰くらいの高さしかないからで、安全性よりも見た目のカッコよさを優先していることがわかります。
山城でもカッコつけたかった!備中松山城の天守
上の写真は、備中松山城の天守。山城では大きな天守を建てるのが難しいので、2重しかありません。でも、たった2重ではちょっと大きめの櫓とあまり変わらない。そこで、屋根の形を複雑にしたり、窓を凝ったデザインにしたりと、涙ぐましい努力でスペシャル感を出そうとしています。
天守は城のラスボス!だからこそカッコよく
ではなぜ、天守はこんなにも意識高い系の建物なのでしょう? それは、天守がもともと戦う建物だからです。戦国時代の後半になると、畿内周辺の武将たちは、侵入してきた敵に鉄砲を撃ちかけながら徹底抗戦するために、城の中心にうんと頑丈な建物を作ることにしました。落城を少しでも遅らせるためです。
こうしてできた、城内最強の戦闘用建物が天守なのです。つまり、城のラスボスというわけです。でも、そんな天守は、武将が最後に命を預ける場所ですよね。だったら、カッコ悪いのは許せない。何せ、鎧兜や旗指物のデザインにこだわりまくった人たちですから、天守も肩で風を切って建つような、カッコいい形にしたいのです。ほら、ゲームのラスボスだって、他の魔物たちとは違って、凝ったデザインの一点ものでしょう?
ちなみに、「天守」の語源はわかっていません。これまで何人もの研究者が、手を尽くして調べましたが、わからないのです。「天守」というのは、天下統一に向かう時代にノリで使われるようになった言葉なのかもしれません。なので、天守を見るときは、いかにカッコ付けしているか、いろいろな角度から、じっくり眺めてみましょう。
最後に一つ、宿題を。こちらはご存知、姫路城の大天守。ではこの天守、どんな平面形をしているか、描けますか? 当然、長方形だろうって? ブッブーッ! 答えは、現地で自分で確かめてください。一階を歩くとき、床板と壁が平行になっているかを確かめるのが、ポイントです。かなり意外な平面形をしていますよ☆
(写真・文/西股総生)
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