この連載では、ここまで石垣、城門、天守といった、城を構成するパーツごとに、見どころをお伝えしてきました。でも、実際には、それらが別々に戦うわけではありません。いろいろなパーツが組み合わさって、全体として戦闘力を発揮します。
そうしたパーツの組み合わせのことを「縄張り(なわばり)」といいます。城を築くとき、地面に縄を張って「ここに虎口(門)を開いて、ここに櫓を建てよう」というように、プランを決めていったからです。実際の例を見てみましょう。
縄張りの工夫の代表「横矢掛り」
大坂城は横矢掛りのパラノイア!?
上の写真は、連載の2回目でも登場した大坂城の千貫櫓と大手門です。覚えていますか? 大手門の横で石垣を張り出させて頑丈な櫓を建てて、大手門に攻め寄せてくる敵を、真横から狙い撃ち! という話を書きました。
このように、攻め寄せてくる敵を横から狙い撃ちするための工夫を「横矢掛り(よこやがかり)」といいます。千貫櫓の場合、実際に使う武器は鉄砲ですが、もともと弓矢で戦っていた時代の名残りで、横矢掛りというのです。
横矢掛りは、縄張りの工夫の代表的なものです。石垣や土塁、堀、櫓、虎口(城門)を上手に組み合わせて、確実に敵を仕留められるようにしているわけですね。千貫櫓と大手門が出てきたので、ついでに大坂城の堀端を歩いてみましょう。
大手門から出て堀端を少し歩くと、六番櫓が目に飛び込んできます。石垣がガキガキっと折れ曲がって、その上に建っている櫓が、あなたを狙っています。どうです? 生きた心地がしないでしょう? 石垣は情景としても美しいのですが、横矢掛りだとわかると、さらに城に興味が湧いてきます。
角度を変えて眺めてみましょう。石垣のラインが連続的に折れて、しつこく横矢を掛けているのがわかります。大坂城のように、急角度で石垣を高く積み上げると、真下が死角になってしまうので、石垣の真下に取り付いた敵を狙い撃ちできるよう、縄張りを工夫しているのです。
白鷺どころか、まるで猛禽!な姫路城
お次は、おなじみ姫路城の天守。どこが横矢掛りか、わかりますか? 姫路城は、メインとなる大天守に、3つの小天守が連結しています。でも、よく見ると、大小4つの天守を単純につないでいるわけではありません。ラインに折れを作って、全体に死角ができないようにカバーしていることがわかります。ほら、パーツを組み合わせて、守りを固めているでしょう?
横矢掛りに仕留められたい!
横矢掛りを楽しむポイントは、ズバリ「仕留められる感」。城を歩きながら、石垣や土塁のラインが折れているところを見つけたら、そこから弾が飛んでくる様子を想像してみましょう。怖いですね!
こうして、縄張りの工夫に目が行くようになると、あなたの城歩きは一気にステップアップします。そして、城歩きの世界が一気に広がります。天守や櫓といった建物がなくても、城を歩きながら「あ、今あそこから撃たれた! 本日7回目の討死でござる」みたいに、イマジネーションをふくらませて、歩くことができるからです。
しかも、横矢掛りのような縄張りの工夫は、戦国時代の土の城にもあります。というか、土の城で有効な工夫だったから、近世の城にも受けつがれたわけです。土の城というと地味な印象がありますが、横矢掛りをとっかかりとして、縄張りの工夫がわかるようになってくると、城歩きの面白さも倍増しますよ!
(写真・文/西股総生)
戦国の城で仕留められ体験! 山中城攻め
戦国の城の縄張りに興味を持ったという方に朗報!
2020年4月29日(祝・水)に、静岡県三島市で山中城攻めイベントを開催します。西股先生ガイドのもと、1590年の山中城攻防戦を同じ時間軸で追体験してみませんか?
- 開催日:2020年4月29日(祝・水)
- 時間:10時半~15時(10時15分受付開始)
- 集合場所:現地駐車場予定
- 参加費:2500円(受付時に現金にてお支払いいただきます)
【諸注意】
※歩きやすい靴と服装でご参加ください。
※各自昼食を持参ください。
※小雨の場合は決行しますが、天候により難しいと判断した場合は変更または中止する可能性がございます。(中止の場合は前日までにご連絡いたします)
※本イベントは、新型コロナウイルスの影響を鑑み、中止となりました。